「仮面ライダーx仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGAMAX」が突きつけてきた"冬映画の可能性"
この長いタイトルの映画は、今から8年前。2011年12月10日に公開された作品である。
最近は「平成ジェネレーションズ」と名を変えた、いわゆる"仮面ライダーの冬映画"であるが
この頃は「MOVIE大戦」を名乗っていた。本作は、その3作目にあたる。
今回は、題名にもある通り"冬映画の可能性"を含めて、本作の感想を記載していくのだが
そのためには、まず過去のTVシリーズに触れていかなければならない。
そもそも、今でこそ冬映画の風物詩となっている複数作品の共演であるが、これは本来タブーであった。
なぜか?仮面ライダーの作品は"全て異なる世界で繰り広げられる物語"だからだ。
つまり、仮面ライダーフォーゼの世界に仮面ライダーオーズは"本来いるはずがない"ということになる。
しかしそれを可能にした、「MOVIE大戦」を成立させる出来事が2つ、TVシリーズで起きたのだ。
まずは2007~2008年に放送された「仮面ライダー電王」である。
「ライダーなのに電車に乗るってどうなの?変になっちゃったの?」
と物議を醸した作品であるが、この電車は"時を走る列車デンライナー"なのだ。"時を走る"ことがキーであり
現在という時間軸以外に過去と未来まで軸を広げることを実現したのである。
続いて、2009年に放送された「仮面ライダーディケイド」だ。
「ライダーなのにシンプルにダサくない?変になっちゃったの?」
と、こちらも物議を醸した作品だ。そんなディケイドが何をしたかというと、
作品それぞれ異なる世界にいるため、決して交わることのなかった各仮面ライダーたちを
半ば強引とも言える形で"すべての作品が繋がった世界"としてしまったのである。
(ディケイド放送当時は、一応過去作品はパラレルワールドとして起用していたが・・・)
以上の2つの出来事があった為に
・「MOVIE大戦」ひいては各作品のライダーを共演できるようにした
・未来や過去といった別の時間軸の出現を"起こりうること"にした
ということが"仮面ライダー"という作品全体で可能となったのだ。
ここまで書いて、やっと本映画について触れていくことが出来る。
この映画、時系列順に並べると「7人ライダー編」「オーズ編」「W編」「フォーゼ編」「MOVIE大戦」と
5部構成から成るのだが、1時間35分という短い中で"完璧"といえる出来で結んでいるのだ。
"冬映画の可能性"をそこで感じたか?いや、それは違う。
核心部分から書いてしまうが、それは「MOVIE大戦パート」に対してである。
新旧ライダーの共演が、非常にテンポよく、少しのムダも疑問もない完璧な仕上がりであったからだ。
過去2作は、共演することの必然性がいまいち薄く、異なる作品を同時に取り扱うことの難しさを感じた。
「鑑賞中に疑問や腑に落ちない部分を見つけてしまうと、どこか感情移入が出来なくなってしまう。」
そんな経験が皆さんも1度はないだろうか。過去2作は自分にとってまさに"それ"だった。
ライダー同士が共演できるようになったのに、その特別感を扱いきれていない感じとでも言うべきか。
しかし、今作ではWの左翔太郎(桐山漣)とフィリップ(菅田将暉)、オーズの火野映司(渡部秀)、
フォーゼの如月弦太朗(福士蒼汰)が必然性を持って同じ画面に並び、小気味よくやり取りを行う。
映司が「弦太朗くん、友達できた?」のセリフと共に登場するシーンには胸が踊った。
また、この中では最も"先輩"であるWの2名は一歩引きながら先輩として後輩にバトンを渡したのだが
そこに新旧ライダーが共演する"意味"と"美学"があった。
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翔太郎「時間がねぇ。お前達は先に行け。2人とも、カンナギとのケリは自分でつけたいって顔してるぜ」
映司「それはそうかも知れませんけど・・・」
翔太郎「映司、最初に会ったとき、お前が言った言葉覚えてるか?『ライダーは助け合いでしょ』だろ?借りは返しとくぜ」
映司「・・・わかりました。行こう、弦太朗くん!」
弦太朗「頼んだぜ、先輩!」
フィリップ「・・・僕らが先輩かぁ・・・」
翔太郎「ま、それも悪くないんじゃねぇか」
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このやり取りこそである。これこそが純粋な"共演"であり、待ち望んでいたものなのだ。
(今や売れっ子俳優の菅田将暉さんと福士蒼汰さんが、こうして共演していたことは今思うと奇跡でもあるが)
過去2作も、部分部分を切り取って観ると、非常に良い作品であることは間違いない。
しかし、新旧ライダーが共演する意味、必然性は「MOVIE大戦MEGAMAX」が導き出したと言えるだろう。
全体を通しても見所は盛りだくさんだ。
物語の始まりである「7人ライダー編」については、
坂本監督の描く"ならでは"の戦闘シーンが試運転というには豪華な描かれ方をしている。
ワイヤーアクションとカメラワーク、肉弾戦で使用されるベビーパウダーにより、
昭和当時では"撮りたくても撮れなかった画"が画面いっぱいに広がるのだ。
特にカメラワークについては、1対多数の乱戦ではカメラを無造作に振っていることで画面が揺れる。
それにより、あたかも視聴者自身もそこにいるかのような没入感を生むのだ(酔う人もいるかもしれないが)。
肉弾戦により空を舞うベビーパウダーは戦闘の激しさをわかりやすく表現している。
時を越えて輝く昭和ライダーは、平成になっても色褪せないカッコ良さがあった。
メインパートの1である「オーズ編」は、オーズファンなら誰しもが願っていたであろう
"アンクの復活"について、ファン心理を無下にしない正攻法で描いてみせた。
アンクといえば、TVシリーズ最終回でコアメダルが砕け散ったことにより実質的な"死"を迎えていた。
「アンクは復活させてほしい。でも、映画だからと言って超展開で安易に登場させることはやめて欲しい」
という複雑なファン心理を抱えていた方も多いのではないだろうか。
しかし、「考えすぎだったか?」と思うほど自然な流れで復活を遂げる。
その後の映司とアンクのやり取りは、1年間を共にした言葉では表せない信頼関係を感じさせた。
映司自身は、TVシリーズ通り"自分の手が届くなら絶対に助けたい!という信念を貫いているところは嬉しい。
未来から来た仮面ライダーアクアである湊ミハルへの語りかけが印象的であった。
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-明日のパンツがない!と騒ぐ映司に、ヒロインである泉比奈(高田里穂)がパンツを渡すシーンがあった後-
映司「俺のおじいちゃんの遺言で、男はいつ死ぬかわからないから、パンツはいつも一張羅履いとけって」
ミハル「俺にそんな覚悟があれば・・・」
映司「そうじゃなくて、肝心なのは"明日の"ってとこ!これは今日ちゃんと生きて、明日行くための覚悟なんだ。ミハルくんは、その明日を守ってくれる仮面ライダーだろ。大丈夫、君が挫けた今日は、俺達が守るから。」
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仮面ライダーはみんなの今日を明日に繋ぐ存在。
ヒーローという抽象的なものを見事に言語化しているのではないか。
個人的にも、このセリフは非常に好きなセリフの内の1つである。
そして、「W編」だ。「オーズ編」と「フォーゼ編」を繋ぎ、最後の「MOVIE大戦パート」への橋渡しが
役割であり、オーズ/フォーゼの先輩として見事にテンポ良く全うしていた。
見どころとしては、"昭和ライダーへのリスペクト"が挙げられる。
変身時に顔に出ている模様は、仮面ライダー1号2号のオマージュであると思われる。
彼らは、怒りのスイッチが入ると顔に改造手術の手術痕が模様のように浮かび上がるのだ。
それを現代風にアレンジしているのだろう。
必殺技もどこか昭和ライダーを感じさせるような、シンプルなライダーパンチ/ライダーキックであり
無駄のない、引き算された上で成り立つカッコ良さがあった。
「フォーゼ編」は、元々が"天ノ川学園高等学校"を舞台とした学園青春ドラマの側面を持たせた
作品でもあることから、"恋愛"といういかにも過ぎる要素を盛り込んだパートとなっている。
青春ドラマで見られる"友情"と"恋愛"に"仮面ライダー"という要素が加わることの化学反応は一見の価値ありだ。
※坂本監督は女性をローアングルから撮影する"特徴"があり、今回も例に違わず、女子高生の太ももをドアップで映すという男性が喜ぶであろうシーンが用意されている。
また、(戦闘シーンのある)女性ライダーとしては4人目となる"仮面ライダーなでしこ"が登場するのだが
女性特有のしなやかなアクションは男性ライダーとの良いコントラストを生んでいた。
ストーリー自体は超展開に驚かされるというか、「人ってスライムとも恋できるのかぁ・・・」という
謎の感情が湧いてくるのであるが、しっかり纏めてくることに驚かされる。
ただ、本映画がフォーゼのTVシリーズが開始して3ヶ月程で公開されているということで、
フォーゼ主要キャストの演技面は不自然さを感じる面も多々あった。(特に各キャストの表情や細かい動き)
クライマックスの「MOVIE大戦パート」は先に書いた通りだ。
付け加えるとしたら、W/オーズ/フォーゼが共闘しない、個々の戦闘シーンは高岩成二さんがスーツアクターを
担当してくれている。これは非常にありがたいファンサービスであった。
Wに関しては、短時間ではあったものの、主要フォーム全ての戦闘/必殺技を観られて大満足。
ラスボスとの戦闘後のエンディングでは、各キャラクターの心情を丁寧に描いており、
ただのヒーロー映画ではない"ドラマ"としてもキレイに完結している。
さて、そろそろ締めに移ろうと思うが、
本作品は"新旧ライダーの共演作"として観ると衝撃的とも言える完成度だ。
昭和ライダーの活躍、昭和ライダーのオマージュと、世代を超えた過去作リスペクトを盛り込みながら
W/オーズ/フォーゼパートは、TVシリーズと繋がっている世界として丁寧且つ濃密な内容で描かれている。
僕は今でも本作品をよく鑑賞する。何度でも観たくなる魅力があるのだ。
更に言うと、「MOVIE大戦MEGAMAX」が自分の中で"冬映画"の完成度を測るモノサシとなっている。
そのようなファンも多いのではないだろうか。
僕は、"冬映画の可能性を突きつけてきた"この作品を手放しでオススメする。
(プライムビデオで観られますよ。ぜひ)